小川洋子・著『ことり』


ことり                                 
冒頭、小鳥の小父さんと呼ばれた1人の老人の遺体が発見されます。

遺体は鳥籠を抱えており、鳥籠には一羽の小鳥が。

そして、小鳥の小父さんの子供の頃にさかのぼって物語が始まります。

小鳥の小父さんには7つ年上のお兄さんがいます。子供の頃、幼稚園の鳥小屋を教えてくれたのはそのお兄さんです。お兄さんは、鳥たちは鳴いているんじゃない、喋っているんだと言います。

「小鳥は僕たちが忘れてしまった言葉を喋っているだけだ」と。

子供の小父さんは思い当たります。「お兄さんも小鳥と同じようにみんなが忘れた言葉を喋っているのか」。
実はお兄さんは、自分で編み出した言語をロにし、私達が使う普通の言葉を喋れないのです。その言葉がわかるのは小父さんだけです。

恐らく作者は、鳥のさえずりを言語化した世界初の小説家でしょう…!?

一般に野鳥観察というと野山でのフィールドワークを思い浮かべますが、小鳥の小父さんとお兄さんにとって、家の庭と幼稚園の鳥小屋が、小鳥の声に耳を澄ませる全てです。

兄弟は、昨日と同じ今日が続くことを願っています。
2人の規則正しい生活の平穏を破る些事は、だいたい外からやってきますが、でも、本当に生活の習慣を変えてしまう出来事は自分の内面の変化によってもたらされます。
お兄さんは、棒付き飴“ポーポー”の包み紙で作った小鳥のブローチを、薬局の店主の女性にプレゼントします。
小鳥の小父さんは図書館の司書の女性に心惹かれます。

今、私達の周りには、無数のことりがさえずっています。Twitterです。その、なんと汚い言葉の氾濫であることか…。
情報を集め、情報を発信し、 開発や利益や発展に寄与して自分の取り分を少しでも多く、そんな生活に私達は疲れていないでしょうか?

小鳥の小父さんのようにうつむいて生活することが必ずしも幸せだとは思えません。孤絶を求めても、結局人を癒すのは、人との結びつきをおいて他にないのですから。小鳥の小父さんが小鳥の声に和むのも、それがお兄さんの言葉を伝えてくれるものだからなのです。

今私達がしなければいけないことは、本当に大切なことを聞き取るために、一心に耳を澄ますこと、ではないかと思います。
本当に好きなことの一つか二つを生活の中心に置いて、何かを犠牲にするわけではなく、そこから得られる喜びを最大の幸福として生きてゆけたなら、そんな静かな生活に憧れると同時に、それでは満足の出来ない、様々な欲にがんじがらめになっている自分を発見したりします。

物語の最後に、メジロの歌合わせがでてきます。山の中で密かに男達が集まって、メジロの鳴き声を競う遊びです。メジロの鳴き声を愛でることは小鳥の小父さんと一緒なのに、その楽しみ方の方向が全く違います。
小鳥の小父さんは、歌合わせに飼われているメジロを逃がします。
お兄さんは、「 小鳥の歌は全部、愛の歌だ 」と言いました。小鳥の小父さんは、歌合わせの男達によって、小鳥達の愛の歌が汚されたと感じたのだと思います。

小鳥の小父さんは、生きること、愛することの純粋さを保ったまま死んでゆきます。
生に対する愛が凝縮された素敵な作品です。

 

【みなさんの感想】

latifa様の感想
http://blog.goo.ne.jp/latifa/e/138dbf5f4fec71af7393475f3dfc270c

 

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2 Responses to 小川洋子・著『ことり』

  1. latifa says:

    こんにちは!
    素敵な感想ですね。原稿零枚~にコメントするつもりでやって来たものの、悩んだあげく、こちらに^^

    >私達の周りには、無数のことりがさえずっています。
    ~~情報を集め、情報を発信し、 開発や利益や発展に寄与して自分の取り分を少しでも多く、そんな生活に私達は疲れていないでしょうか?
    ~~本当に好きなことの一つか二つを生活の中心に置いて、何かを犠牲にするわけではなく、そこから得られる喜びを最大の幸福として生きてゆけたなら、そんな静かな生活に

    全くもって、そうですね!!
    小川作品の、静かで優しくて、ちょっと悲しくて寂しい処が大好きです。

    • aisym says:

      latifaさんコメントありがとうございます。
      まだブログを始めたばかりでよくわからなくて、コメントもlatifaさんが初めてで、うれしいです。
      「ことり」は私も好きですし、みなさんの評価も高いのですが、「原稿零枚日記」の感想文を書くにあたってもう一度読み返して、「原稿零枚日記」は小川ワールドのを始めて体験する方にはもってこいの作品ではないかと思いました。「原稿零枚日記」の世界がわからなければ、小川ワールドには馴染めないと思うのです(残念ですが…)。
      ちなみに、私の中の1番は「猫を抱いて象と泳ぐ」です。
      さらにちなみに、私は小川作品が好きなのです。
      感想は好き嫌いを別として、純粋に読んで感じたことを書くようにしてるのですが。

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