人殺しの時代だった。永い洪水のように戦争が集団的な狂気を、人間の情念の襞ひだに、躰のあらゆる隅ずみ、森、街路、空に氾濫させていた。
2人の少年は沿道の村の百姓につかまり、傷だらけにされています。
感化院の教官は、少年達を集めてこう言います。
「こんな奥の村へ入って来たら、どこへ逃げても町へ着くまでに百姓につかまってしまう。あいつらときたら、お前たちを疫病みたいに嫌っている。殺しかねない。お前たちは刑務所にいるより脱走しにくいんだ」
つまり彼らは、親から見捨てられ、社会からも爪弾きにされた存在だったのです。
ようやく、深い谷を挟んで山のこちら側とあちら側をトロッコで結ぶ村に受け入れられるのですが、その村ではまさに疫病が発生していたのです。
教官が去ると、村は少年達にある作業をさせます。
川原に積まれた動物達の死骸の埋葬です。
村外に通じる唯一の連絡手段であるトロッコは閉鎖れています。向こう側に見張りを置く用心深さで。
「戦争が終わるまでのほんの短い間、俺は隠れていればいいんだ。」と脱走兵の声は祈りのように熱っぽかった。「国が降伏しさえすれば、俺は自由になる」
「あんたは今だって自由じゃないか。この村の中でなら何をしてもいい、どこに寝ころんでもいても誰一人あんたを掴まえない」と僕はいった。「すごく自由だろ?」
「俺も君たちも、まだ自由じゃない」と兵士はいった。「俺たちは閉じこめられている」
「村の外のことを考えるな、だまっていてくれ」と僕は怒りにかられていった。「俺たちはこの村の中で何でもできるんだ、外のあいつらのことをいうな」
兵士はとらえられ、そしておそらくは村人達によって殺されます。疫病の中に子供達を残した事実を、外の世界に知られたくないために。
そして少年達にも、硬くロを閉ざすよう要求するのですが、主人公だけは拒否します。
僕らはうまくはめこまれようとしていたのだ。そして《はめこまれる》ことほど屈辱的でのろくさでみっともないことはないのだ。
私達は、兵士のいうとおり、国が降伏して戦争に負けたことを知っています。
しかし、それで果たして私達は自由になれたのでしょうか?
僕は閉じこめられていたどんづまりから、外へ追放されようとしていた。しかし、外側でも僕はあいかわらず閉じこめられているだうう。脱出してしまうことはできない。内側でも外側でも僕をひねりつぶし締めつけるための硬い指、荒々しい腕は根気よく待ちうけているのだ。