高尾長良・著『肉骨茶』

肉骨茶                                 


それにしても不穏さをを感じさせるタイトルです。
 
主人公の名前は赤猪子といいます。これがまたこの小説の一筋縄ではいかなさ(?)を表しています。その名の意味するところは、滅びでしょうか、不変でしょうか?
 
赤猪子は17才の女性です。母親とマレーシアに旅行中です。シンガポ一ルからマレーシアに入国するところから小説は始まります。
マレ一シアの入国審査場のトイレで、母親がレストランでタッパに詰めた食べ物を赤猪子が捨てます。
 

食物どもは速やかに、そして幾分華麗な飛沫の音を立てながら便器の喉に飲み込まれていった。赤猪子の目に僅かの間曝される食物どもは吸い込まれてゆく時はいつでも細かい悲鳴をあげ哀しげに旅立ってゆくのだ。狡猾な食物ども、切り落とされ加工された食物ども、胎児の住むような暗黒の世界に帰ってゆけ。

 
主人公はどうやら拒食症のようです。赤猪子は体内に取込まれて脂肪となる食物を憎悪しています。
生命の維持に必要なだけの食物の摂取をしているようですが、飛行機の中で摂った機内食を後悔し、人知れず筋肉を動かしてカロリーを消費します。
 
赤猪子は母親と団体ツアーに参加していますが、赤猪子の本当の目的は母親からの逃亡です。赤猪子は現地の友人の手助けで首尾良く団体を抜け出し母親からの逃走をはかります。
 
手助けをした友人はゾーイーという金持ちの娘で、その運転手と幼なじみの鉱一が主な登場人物です。
 
どうやらゾーイーは赤猪子が痩せているのは母親にネグレクトされ栄養を与えられていないからだと思い、 無邪気に赤猪子を手助けし ているようです。
そんな赤猪子を救い出し、運転手が得意とする料理「肉骨茶」を振る舞おうというのです。
 
そう、「肉骨茶」とは料理の名前だったのです。
 
カロリーの無邪気な提供者である母親から逃れてきたにもかかわらず、あらためて赤猪子はカロリー提供者と戦わなければなりません。
ゾーイーに連れていかれた別荘で、赤猪子はカロリー消費のための孤独な闘争を強いられます。
 
やがて肉骨茶が供されたテーブルで、ゾーイーの無邪気さの仮面が引き剥がされ、その秘めた企みが明らかになります。
 
私達は普段、ただ単に空腹を満たすだけの食事の味気なさを思ったりするわけですが、この小説では、生命の維持と切り離された、嗜好としての食事或いはカロリー摂取をおぞましきこととして描きます。
 
確かに満腹を越えてなお、ただただそのうまみだけを味わうために食べ物を口にするとき、かすかに心の中でうずくものがあって、この小説はそのうずきの出所をうまく、否、過剰に取り出して見せてくれます。
 
限られた登場人物、閉鎖的な空間、行き場のない逃走、それに赤猪子のお腹の膨満感が加わって、不思議な緊張感を醸しています。

 

【みなさんの感想】

翁納 葵様の感想
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永濱記様の感想
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